都会のジャングル

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─目の前で、今世紀最大の〇〇と語られるような極めて稀な事件に遭遇したことはあるだろうか─

プロローグ

これはとある都市のとある学校に通う生徒の目線で見る、ある日の大きな事件にまつわる不思議な話である。

帰宅

私が学校から帰る時間帯、人は多いか少ないかでいうと多い。部活はしていないから授業が終わってすぐ校門を出ていて、学校内だとかなり早く帰る部類のはずだ。なのにここ、駅という場所は人で溢れている。…仕方がない。ここは「都市」と名乗るくらいの集客力、人が大好きな名スポットというのがたくさんあるらしい、や、集まったよそ者…いやお客さんを匿う…いや泊める施設、お客さんの帰宅用に作られたんじゃないかと思ってしまうくらい観光客の割合の高い駅があるのだ。仕方ない。

ちなみに、自慢じゃないけど私の家の最寄り駅から電車で10分の距離にあるこの大きな駅にはたくさんの、とにかくたくさんの店がノキを並べている(小説では店がずらっと並んでいることをノキを連ねる、とか言うんだろう?)

マキを並べる店の中には、例えばアメリカのとある兄弟が祭りの時に屋台で売りさばいた熱いサンドイッチのチェーン店(マック、マックというアレだ)や、片仮名四文字のこの単語のどこが服のメーカーなのか考えるほどわからなくなってくる、赤い四角に白字の片仮名が 正方形4コマ漫画の配置でデザインされている全国的?な服屋(ユニクロ、というやつだ。どこに服要素があるのかネーミングセンスが私とは異なるようで全くわからない)などなど多すぎるほどにあるのだ。

そうなると大手デパート(デパートという言い方は古いかもしれない)とほぼ同じじゃないか、映画館があるかないか電車に乗れるか乗れないかの違いしかない。もし映画も見られるというなら駅だけで充分だろう。イオンやアリオがある意味はない(言いすぎた)。意味はあるんだろうが、便利さは駅のほうが上だろうと言いたかったのだ。

国の方針か政策か、民共の願いか、「電車に乗れるデパート」となった都市の駅を私は通学に利用している。学校から一番近いのだから使わない理由はないだろう。今日もほら、すれ違っていく女子生徒3人のグループが何かを手に持って歩いている。飲み物だろうけど、正直どうでもいい。学生に対してこんなゴーセーな商業施設を見せると誰だって買い食いしたくなるだろう(とは言うが私はしたことがない)とか、中身が熱いかどうかは知らないけど足引っかけて顔面にかかればいいのに と3人を睨むように見ながら念じてみる(彼らが私に何かしてきたわけではない)。

今日もいつもと変わらない、他人に心の中で悪態ついて改札抜けて。

季節外れな服装してる人を見て心の中で悪態ついて時計見て。

次の電車まであと7分あるようなので向こうのホームを眺めて。

私が一番バカだと思うのだが心の中で「バッカでー?」なんて言ってひとりで楽しむ。気分がとても良くなるとか、逆にすこぶる悪くなるとかこれを共有してみるとか隣の人に話を振ってみるとかそういうことをして私の心の声の存在を表に出すことはしない。あくまで無表情で。習慣。条件反射。

電車が視界に入ってくるまで色んな人を見ては色んな反応をしていたが、電車に一歩踏み込めば、人のことは考えないのだ。そうしようと決めているわけではない。これも習慣なのだ。何も考えず、外を眺める。これが私が車内で取る行動だ。…人が多いから窓際に座るか立てたとき限定だが。

今日は…微妙だ。座れるかもしれないけどガラガラではない。白黒はっきり多いか少ないか分けてくれれば、私と同じタイミングで乗り込む人を恨むことなんかないのに(私は座れなくて私より後に乗った人が座ってるの見るとさ、ショックじゃない?)。

「微妙」な状態で停車した電車は、これから「ほぼ満車」の状態になる。これを電車は知っているのだろうか(ニヤニヤ(棒

言われてみれば「宇宙船から何者かが煙と強烈な光を背に登場するシーンの扉のオープン音」に聞こえなくもないプシューという音で扉が開く。降りる人は数人。ドアが開いて約5秒後、私たち乗車組による私の席争奪戦が始まった。電車を待つ間に出来ていった列のどの辺りにいるか、これも有利不利に繋がる。私はいつも先頭だから常に列の中では最も有利なのだ(時々前に人がいることがある)。降りていく数人を横目に、中の様子を見、座れるか、窓側は空いているかをざっと確認していく。

狙いは素早く決めないと、優柔不断だと席をとられてしまう。…今回はツイているようだ。今降りた人の座っていた席が空いている。ここは有良物件ならぬ優良シートだろう、皆狙って来るはず。

早歩きで周りを突き放し、勢いで目当ての席に座り込む。勢いを付けすぎて、座ったとき小さく悲鳴が聞こえた(急いでたら仕方ないだろ?ドスッて座っても壊れないくらいに強いはずだしいいんだよ少々手荒いことしたって)。

窓際で、座れた。ゆっくり外の景色が眺められる。至福の一時(10分間)を過ごせる満足感で、横に誰が座ろうと気分は上々だった。電車が走り出す。線路のつなぎ目の段差のせいなのか、車体が揺れる一定のリズムでリラックスしながら、並ぶマンションの壁を眺めていた。

これが「都会のジャングル」というやつだ←田舎者が言いたいワード!!私田舎者!

突然、トンネルから出た時みたいに、ふっと光が当たるようになった。ビル群が途切れて、都会にしては開けた土地に変わる。次は民家ゾーンだ。アスファルトで舗装され、迷路か京都か、というような住宅街になっているであろう似た家が並びまくる景色を無心で眺める。毎日一緒。いつも同じ。だから落ち着くのだ。なんて思いながらまたぼーっとする。…いや、しようとした。が、出来なかった。視界には、今まで見たことのない光景があった。それを見た途端、私の電車内での記憶は飛んだ。気が付いたら家にいた。疲れた記憶なしで家に帰れてラッキーと思うことにした。

──私はビルを上から見下ろしていた。ヘリコプターや飛行機から見下ろしているのではない。真下も見下ろせるからだ。でも何かガラスのような透明な板に立っている足の感覚もない。まるで浮いているような。浮いて、空から見下ろしていた。

せっかく上空にきたんだからいつもより近くにある太陽と雲でも目に焼き付けてどっかで自慢してやろうと顔を上げたとき、目にビカーッと効果音が付きそうな強い光が目に刺さるように入ってきた。太陽のある上ではなく、正面…より少し下から。そういえば体の周りが温かいような気がする。風呂にでもいるかのような…。

ということは水面で反射した光が私の目に届いたと。都市1つ、20階建てのビル1つすっぽり飲み込んでしまうくらいの水…お湯がたまっていることになる。現実的に異常なことだが実際にその場に居合わせると受け入れるのが最短距離の体力セーブ法なのだからそうするだろう。

ここは水中都市化して、見渡したところ私以外に人はいない。その事実で充分だと言い聞かせて何も考えないことにした。どうせ考えたって解決しない。これはそれほど簡単じゃないと私がどこかで知らせてきたからだ。私は水上、体の中は水中にある、でぼっちの世界に来てしまった…のかなってしまったのか。

何も食べなかったら餓死するのは免れないだろうがそれも運命、最後の一時をひとりで過ごせるのだ、とポジティブにまとめたところで、沈んだ都市のことが気になってきた。元々地面だった所まで潜れはしないだろうが、すぐ近くの高層マンション、50階くらい…あるのではないだろうか、の部屋を観察してみることにした。

平泳ぎで、ゆっくり。私の晩年なのだから私が急ぎたくないとき急ぐ必要ないだろう?と誰かに向かって主張し泳ぐ。マンションの壁にタッチしたとき、だいぶ時間は経っていたと思うが、太陽は同じ所でまだ光り続けていた。これは100%おかしいのだが、おかしな世界にいると人がおかしくなるのはどうも定めらしい(誰が定めたのかは知らないが)。

そんなことはさておき部屋の中を見てみる。中は、高級感と清潔感のあるきれいな家具が使いやすそうに置かれた部屋だった。心の中の声が騒がしく喋り出す。

「ここサラリーマンが住んでんだぜ絶対!リーマン!リーマン!リーマンショックゥゥウ!」

うるさい上に根拠がないので一旦黙らせ中の観察を続ける。すると部屋に人が入ってきた。じっと見ていると、向こうもこっちに気がついたらしく、口を開けたまま固まっている。その人は腰も抜かすと目を離すことなくこちらに体を向けたまま少しずつ後ろに下がっていく。よっぽど(温)水の中で浮いている私が怖いらしい。中の人が携帯で誰か、恐らく警察辺りだろう、に連絡しているので、どこから助けが来るのかと水の底の道路をじっくり見てみると、驚いたことに車が走っていて、小さい点も見える。この点は人だろう。

瞬時に「私だけ時空か次元がおかしい」ことを理解した私は、どうすることも出来ない今の状況に、もう呆れて笑うしかなかった。急に笑いだした私を見て腰を抜かした女はギョッとしていたが、それすらも笑いの理由にしかならなかった。

この世界に存在してはいけない、というか存在すべきではないというか。イレギュラーな私を助ける者など、助けることが出来る者などいない──そう思ったとき、小さく、遠くから犬の遠吠えが聞こえた。どこかで聞いたことのあるその声を聞きながら、変わらず適温の湯に浮き続ける私の視界は白い光に遮られていった。

気が付くと家にいた。庭の犬小屋の方に目を向け、いつも通りそこにい人懐こい家族の姿を目に入れる。地面を踏みしめる感覚が懐かしいなと思いつつ、玄関の扉を開く。

「ただいま」

エピローグ

今日午後3時50分頃、〇〇市の住宅街でマンホールから温泉が湧く事故が発生しました。幸い蓋で負傷した人や建物の損害などはなく、温泉が勢いよく噴き出したのは一瞬だったということです。家の浸水の報告は未だありません。これは今世紀最大の突沸と言われており、専門家による研究が進められています。警察は水道局の職員と共に原因を調査しているとのことです

─終わり─

診断メーカーより、『温泉』『犬』『虚構世界』で小説を考えてみましょう

解説

  1. 「軒を連ねる」って言えば良いじゃねーか
  2. 「マキを並べる」はわざとです…(笑)
  3. 街が水没した世界観はドラえもんを参考にしました。ほら、あの、眼鏡かけた人にしか見えない水あったじゃん?それ
  4. 部屋の中を勝手に窓の外から見て良いものか…
  5. ビル20階より上にいるはずの主人公が地上(底)にいる人や車が見えるか、というのはいささか疑問ですが(笑)、目がすごくいい、あるいは主人公の想像の世界だったから脳の思い込みで見えたと考えるべきでしょう
  6. とにかく不思議だと思わせるのが目的で書きました。何も教訓は込めてません
  7. 田舎者なのはこのブログを運営している私です。咲兜です。