ヤベー奴来ちゃったよ編 34

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「エ、マジかいつの間に靴履いたんダ…」

そういえば階段上るときに見知らぬ誰かに”ここから先は危険だからきちんと足の裏を守った方が良い”って言われたような…。うんうんとうなずくような、それでいて悩んでいるような、すっきりしない顔をして黙り込む左賀を見て担任の黒パンは…じゃねぇわ古典教師ダ(そうだったよな?)訝しげに左賀の様子をうかがう。

「………」

「…」

誰も喋らないどころか、空気ひとつ揺れ動く気配がない。ピリッとした雰囲気で、クラスに5分の1くらいはいがちな”黙ってられない・停止できない”系の面々が声を潜めて隣と会話しはじめたころだった。

「オイ、いろいろと聞きてぇことがあんだよ」

口を開いたのは左賀だった。正直 お前のターンだよ、と思っていた古典教師は先を話せと促す。左賀は手に持っていたスリッパを教卓の上に静かに置いた。スッ…と空気が冷える音がした。スリッパから手を離した左賀は、小さな声であぁーきったねぇ…なんでホコリが存在してんダヨ、掃除しろよ、などとごちている。悪かったナ、掃除が行き届いてなくて! そう反論しようとした古典教師1だったが、大人げないので耐えた。心の中で自画自賛をして、この腹立たしいカンペキ問題児になるであろう生徒にあたたかな目線を向ける。

「…ナンダヨ、気持ち悪ぃナ」

「……。」

思わず道徳の時間を初めてマジで人の道を叩き込んでやろうかと拳を握った古典教師だが、自分を不思議そうに見てくる左賀と、授業潰せ!って願いを込めた目で見てくる(気がする)生徒のまなざしで、なんとか踏みとどまる。なんて面倒な転校生なんだ、古典教師は思った。

「…じゃあ左賀サン、自己紹介してもらえるカナ」

「先に私からの有難い質問に答えろや」

「後で聞いてやるヨ。とりあえず転校生の手順を踏め」

へいへい、と教師に対するものとは思えない気の抜けた態度で返事をする。了承したからそれで充分だ、と思ってしまうあたりもうこの先生は手遅れだ。ゲロ甘じゃねぇかと鼻で笑ったような態度をちらつかせながら、左賀は今後いくらかは世話になる可能性がなくもないクラスメイトの顔を眺める。頭数はおよそ30から40といったところか。教室の後ろには程よく戯れられそうな空間があり、圧迫感がないのはイイコトだ、床に寝転がれるなんてサイコーだな、なんて考える。まぁやらないが。他人の制服借りたらやろうかなって思う。

「左賀デス、君らには左賀サンって呼ぶ権利をやろう」

シケタ。全く反応がない。ミスったかな、と先生に目を向ける。すると何故か目のあった先生と左賀は意味の分からないテレパシーやり取りを始める。いや、巻き込んだのは完全に先生だ。名前知らんけど。頭の中に先生のものらしき声が聞こえる。

――もっと打ち解けようとする姿勢で行け

なにを言うかと思えば至極正論のようなことを言う。左賀は先ほどの自分の発言を思い返して反省点を踏まえながらもう一度自己紹介をやり直そうとしてみる。…が、左賀はあまりにも記憶力が悪かった。自分の発言どころか行動にも責任を持てないレベルで、言ったら・やったらすぐ忘れるのだ。今まで自分の過去のコトを真剣に思い出す機会なんてなかった左賀は舌打ちでもしたくなったが、はたと考える。