ヤベー奴来ちゃったよ編 36

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ピシリ、と動きが止まったままの二人を見て、満足そうにフフンと鼻をならす。目の前の二人はまさか自分のことだとは思わなかったと言いたげな顔で左賀に顔を向ける。

「ヨ! 何の話してんの?」

「いや別に…」

歯切れの悪い二人、うち一人は緊張でもしちゃってるのか固まったまま喋れなくなっているようだった。はっきりしない子は好きじゃないなァー、なんてからかいながら目線を合わせるようにしゃがみ、鼻歌が聞こえてきそうなうきうきとした表情で二人をじっと見る左賀。居心地の悪い妙チクリンな空気が立ち込め、教室の中で左賀の周りにだけ変なオーラが出ているようだった。転校生が自ら絡みに来るなんて想像しもしないクラスメイトたちは、絡まれないように、と机をガサゴソと漁る。それがまた滑稽だったのだが、原因である左賀は目の前の事案に集中していて気が付かなかった。

「えっと…」

「ウン、なになに?」

ようやく口を割る気になったか…このアベックめ! そう言ってにこにこしている左賀からは、死語のダサさが漂っていた。いまどき「わけわかめ」とか「あたり前田のクラッカー」とか「黒電話」とか使わないのならそれをむしろ使いたい、派閥名”アンチーク”に属する左賀は、次に放たれる言葉に絶句した。

――あの、アベックって…なんですか

まさかの敬語!! ってところには突っ込まない左賀だ。ただ今は頭の中で反芻していた。あべっくッテナンデスカ…何ですかっつったって、ねぇ? カッポーのコトじゃんか。え? 恋人たちのコトを指すんでしょ、合ってるよね。…私も「アベック」全盛期じゃないから知らないけど、アベックの意味知らないけど使えるよ? 使ってるよ?

マジで言ってんの…? 真剣に目で訴えかけてきている左賀に対して冷静さを取り戻したな二人は、あべっくってなんだろう、と素直に気になってスマホを取り出した。電源ボタンを押し、待ち受け画面が表れる。グーグルの検索ボックスをタッチしていざ「あべっく」の時間…というタイミングで更なる刺客が。その刺客は二人に一言も話し掛けることなくテンコーセイの首根っこを掴んだ。なぜか引っ張られていく左賀と、サガを引っ張っていく見知った顔の女子。二人は全く状況が理解できないね、そんな意見を交換するかのように顔を見合わせた。

「キンチョーした…」

「まぁね、フツーびっくりするよね。私たち全く持ってあべっくの要素無いのにね」

ホラこれ見て、そう言ってスマホの画面をもう一人に見せる。そこには、アベックとカップルの違い! と題したブログ記事が表示されていた。興味深く思って読み進めていくと、結論アベックとは2人で何かをすることや、一般的な男女のペアを指すと書いてある。

「あべっくの要素はあると思うけど…?」

「エ?…もしかしてもうあのテンコーセイの手下になったの!?」

「いや、なんでそうなるの」

私たちが女子同士だろうが男女だろうが”あべっく”って言い方は間違ってない(ってスマホに載ってる)から、と理由を説明してなんとか誤解(?)を解いたとき、見計らったかのようにチャイムが鳴る。

ガラガラ、とわかりやすい扉の動きとともに、担任が入ってきた。一時間目は恐らく「学活!」とでも言うのだろう。

「よーし、全員いるな~?」