喧嘩の経験ゼロですが?

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金属をこすりつけるガリガリという音がその空間にこだまする。そこそこ広い建物は以前工場として使われていたのであろう。コンクリートの床、敷居のない入口、室内にはいくつも機械や材料のようなものが残っている。

自分の目の前では5人、なにかを見て驚いたように目を見張り、油断しまいと離れた位置で構えている。…うん、正直に言っちゃうね。私自身のナレーションでカッコつけてたけど、なんか私にビビってるっぽいわ。

どっかのよくわからん人間に絡まれたミーは、喧嘩なんか出来んぞ!と脅したのにも関わらずこんな人気のない雨宿りにぴったりの肝試しスポットに連れてこられた。というか自分で歩いてきたから自己責任。はい、私が悪いですね。

―さっき、ここの工場に来る前、私はいつもと同じくひとりでてってけてってけ歩いていた。お使いとかウィンドウショッピングとか、おしゃれな名目でもあればリア充やってんなーって気分も上がったんだけど、生憎そんなんじゃなく、ただ家に向かって歩いてました。

いっつも道を両脇から阻むように経っている店たちに今日くらいは構ってやろうとなんとなく考えて、とりあえず真横の革バッグショップみたいな店のショウウィンドウに目を向ける。ガラスの向こうにはランドセルが置かれ、こいつら1年中売れずにおいてあんだろなーと思ったら吹きそうになった。

だって、常に同じ場所で誰にも気にされないように置いてある幼稚園年長対象の商品なんて、一体どこの誰が買うの?てかこの店が開いてる保障もなくない?ランドセルは時期だけセールすりゃいいんじゃねぇの、とかとかそういう文句を内心呟いて私が私に何を言ってるのと突っ込みたくなったところで、飽きたのでランドセルどもから目を離す。

目をそらす直前、中に人影が見えた気がしたので思わず「やってんだ…」と言ってしまったのは仕方ない。なんとなくバカにしたような声色にもなって、これを店員とか店長に聞かれたらまっずいな…と苦笑する。

きっと店長しか存在しないので(繁盛してなさそうだから)聞かれないよう注意する必要はその店長オンリーになるわけだ、店番するやつが外気に当たりに外に出るわけがないと結論付け、私はゆっくり家への道を歩く。

わざととしか思えないフラグ―失礼な言葉を聞かれた、いや聞かれるはずがないだの店番は店長だけだろう、店員を雇っているはずがないだの―を立てまくって自分の生存率を著しく下げたことで、見事な氏亡イベントが発生する。

それが冒頭の工場での行動に繋がるわけだ。詳しく言うと長くなるから言わないが、あと15分で家に着くかなーもう半分だなーって感慨深い感情に浸ったふりをしていた私に、後ろから誰かが話しかけてきた。もしかして手袋を落としちゃったのかと思い自分の手元を見るが、夏だった。じゃあ何の用だと訝しげに相手の手をこれでもかというほど見つめてやったが何も持っていない。

それでこの様である。相手から名乗られはしなかったがたぶんランドセル店の差し金か何かだろう。悪口言っちゃったもんなぁーフラグが初めて回収されたぜこの野郎!俯いて喜びを隠しながらにやけていると、ぞろぞろと足音が増えて、自分の前に横1列に並んで立ち止まった。

催し物でも始まるのかと思ったが、まさかそんなことは起きまいと再びフラグを立て始める。目の前の5人はなんかめっちゃこっちを見て、なにかしら作戦会議でもしているのか喋りだす。これ隙見て逃げらんねぇ?とか考えたが、逃げるならトップスピードで逃げたいのでじわじわ後ずさりして工場の入り口に近づくにとどめておく。

正体不明の5人組は、江戸時代の隣組か何かで、グループになって私のことをボッコボコにしようとでも考えているのかな?ジーっと見つめておいてやると、おもむろにナイフを取り出しやがる。喧嘩で殴り合ったことないんですけど!!という顔をしてみせたら、そいつらは激アマだったらしくそのナイフをこちらに投げてよこした。

内心とんでもねーバカだなぁと思いはしたが、言うと叩かれそうなので遠慮がちにぺこぺこ会釈しながら刃物を拾い上げる。これを構えて突っ込んでいけば慄いて逃げてくかなー、と勝手に上がって止まらない口角はそのままに妄想にふける。

でも私敵陣に生身で突っ込む趣味ないしなぁー、どっかから出てこねぇかなードM。殴られて喜びそうだし。…いや、冗談デスヨ?Mの人みんながみんなボコボコにされたいわけじゃないのはわかってる。私だって嫌だし。……はっ!こんなんじゃ私の方が隙衝かれるんじゃないかと気付き慌てて現実に戻る。

世界中のドMを敵に回し、ついでにMの端くれの自分も敵に回した私はやけを起こしてめちゃくちゃな行動に出ることにした。―人間というのは…理解不能な状況に陥ると…恐怖を感じるんです―誰かがそんなことをいってた気がする。テレビとか。つーか今となっては常識じゃんね?

ガリガリとナイフの刃の部分を地面でこすりながら考える。早よ立ち去れ隣組、研ぎ終わったら私は君らにおっそろしいことを言って狂ったやつを演じねばならんのだ。もうアドレナリンがすっごいドバドバ出ちゃって止まんねぇよ?いいの?私脅迫罪で逮捕されちゃうコワーイ

だだっ広い無機質な空間にはただ金属が削られる音と、それを見守る優しい優しい6人の止まった呼吸だけが流れた。←?

…おいおい君たち、どうしてまだそこにいる?こっちの作業はもう最終段階よ?ナイフの柄を強く握り、コンクリートの地面に突き立てる。鋭利な見せかけにもかかわらず、ドンと鈍い音がして刃先は波打ってつぶれる。

…これで、完成だよ

効くかはわからないが、恐怖を植え付けるためにふらりと立ち上がる。隠す気のない満面の笑みを5人へ向け、今チョーゼツ楽しいよ!という気持ちを滲ませながらナイフの先を彼らに向ける。

3人は先端恐怖症らしかった。じゃあナイフ持ってくんな、と真顔で小さく吐いてから更なる追い打ちをかけてみる。もちろんナイフは現役続行で5人に向けているが、これに加えて言葉を巧みにつかい恐怖に陥れる。怪談話で怖がれるだなんてあなたたちゼータクよね。

「この切れ味すこぶる悪い刃物に切られたら、どーなるでしょー」我ながらかなり法に反している気がしなくもないが、先に仕掛けてきたのは向こうだし、それにフィクションの世界じゃあ銃だってナイフだってその辺の何かしらを武器にして殺ッちゃってる人もいるわけだし、それに比べたら無罪に等しいわぁ!!…と冷静に言い訳する。自分に。

ところで、相手のビビり具合か芳しくないのでそろそろおいとましてもよろしいだろうか。ポーイ、とナイフを後ろに放り捨て、飽きちーと一言いい残してスキップする。へへらっへらっと鼻歌をこれ見よがしに聞かせながら芝生の地面を踏みしめる。おー、自然はいいもんだ!靴の下の緑を10回ほど踏みつけて工場からずんずん距離をとっていく。

さ、おうちに帰りましょ!!あの人間が結局何者なのかはわからないけど、今の平和ボケしたニッポンで(褒めてる)、銃刀法違反はすぐに捕まるわ!!オホホ!…あっ、またフラグ立てちまったぜ…。あー、お腹空いたー

工場跡地では、誰かの悔し気な叫び声が上がり、近所迷惑として交番に届け出があったそうな…。以上、なんだこれミステリーに私が投稿したくなる意味不明なお話でした。

今日から俺は!!の夢小説を1週間くらい読み漁ってたら、どうしようもなく廃工場で謎にナイフをダメにする話が書きたくなっちゃって(笑)