ヤベー奴来ちゃったよ編 35

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もしかすると自分のこの忘れ癖は必要ないものを忘れるためにあるのか、と。だから覚えてることだってもちろんある中でついさっきのコトを思い出せないのだ。不可抗力ってやつだ、抗うなんて、忘れた買い物リストを必死に思い出しながらつまらん買い物をするようなもんだ。忘れたなら諦めて気分でなんでもやっちまえよ。

――うるせぇヨセンコー。別ン私が何言ってようがカンケーねェだろ

――友達、100人欲しいんだろ? 友好的にいかねぇと、クリぼっちになっちゃうぜ?

ハラタツ。小ばかにしたように”富士山上らねぇとな”って顔してこっち見てやがるセンコーに、自分の全勢力を上げてでも貴様を正月も含めて冬休みボッチにしてやろうか家吹き飛ばすぞコラ、とどっかの絵本の狼っぽい何かのセリフを念じる。

「ケッ」

どうしたどうした、急にキレんじゃん、何なのコイツつっぱってんの? 沸点低くない? 流石ツッパリ(真顔)…みたいな顔で引き気味にこちらを見ている前列の数人には左賀直々にガン飛ばしておいた。怯んだ彼らは慌ててそこら辺に視線を逃がしたようで、この後全く目が合わなかった。

「……」

再び沈黙が訪れる。春じゃないのに沈黙しなくてよくない? そんな叶わぬ願いを聞きながら、左賀は昔読んだ「沈黙の春」という小説のコトを思い出していた。あれは小説なんだろうか。評論のようにも思えないことは無い。だがテイスト的に小説だ、ということにしておこう、なにやらめんどくさい。ジャンルがどうであれ、あの本を次に手に取るとしたら中年太りしたころになるだろうな…、きっとそれは一生読まないということなのだがチャイムの音で現実に引き戻される。

「ア、鳴ったネ、センセー」

「…はぁぁぁあ…」

「こっちノため息ナンデスケド」

これみよがしにため息をついて自己の幸せを逃がしている古典教師をこっちがため息つきたいわという気持ちを込めた言い方_失敗して棒読みだった_であしらい、人の不幸は蜜の味、悪いことあったら教えてよ、とケラケラ笑う。センコーからは道徳を根本から教え込んでやる、といった目で睨みつけられ、ひそひそと耳打ちしあっているクラスメイトたちの方からは言いもせない(?)嫌な雰囲気が漂っていた。

”リア充め…!!”

腹が立ってばかりだが、これで寿命が縮むならいくらでも縮めてみろや! それくらい健康大児(?)な左賀である、とりあえず目についた一番近くのペアのところへ向かう。トランクやらなんやらは置いておくことにした。自分の席にでも置きに行けばよかったか?_いや、そんなことをしていれば貴重な休み時間がなくなる。無駄なことはしないのが一番の効率化なのだよ諸君。経験は無駄であろうことも含む、なんていうけどな、経験と生活は別なんダヨ。生活は経験の上に成り立ってるってなぁー!…なに言ってんだろ。

茶番をやってる間にもきちんと足は動いていたらしい。目の前には例のいちゃつくカップルが相変わらずのうのうと耳打ちしている。どちらか片方でも気付けば面白いものを、二人とも世界にイントゥーザしてしまっている。

「何を話してるのかな、アベック」